ホーム/テクノロジー/アクティブノイズキャンセリング(ANC)ヘッドホン徹底解説|仕組み・タイプ・選び方のポイント
テクノロジー

アクティブノイズキャンセリング(ANC)ヘッドホン徹底解説|仕組み・タイプ・選び方のポイント

アクティブノイズキャンセリング(ANC)ヘッドホンの原理やFeedforward・Feedback・ハイブリッド方式の違い、効果が高い音・低い音、選び方のコツまで徹底解説。初心者でも分かるように、パッシブとの違いやノイズの限界、現実の使い心地も詳しく紹介します。

2025年11月27日
8
アクティブノイズキャンセリング(ANC)ヘッドホン徹底解説|仕組み・タイプ・選び方のポイント

アクティブノイズキャンセリング(ANC)は、ワイヤレスヘッドホンの中でも最も人気のあるテクノロジーの一つとして知られています。このANC機能は、交通機関の騒音や飛行機のエンジン音、周囲の会話などを低減し、音楽鑑賞や集中に理想的な快適環境を実現します。しかし、アクティブノイズキャンセリングは「魔法」ではなく、外部ノイズを分析し、逆位相の音波を生成する複雑なマイクロホンとアルゴリズムのシステムによって成り立っています。

ANCの種類と基本原理:Feedforward、Feedback、ハイブリッド

ANCには主に三つのタイプがあります:フィードフォワード(Feedforward)、フィードバック(Feedback)、そして両方を組み合わせたハイブリッドタイプ。それぞれ動作原理や強み、弱点が異なります。なぜ同じANC搭載モデルでも、あるイヤホンはパワフルで自然なノイズ抑制を感じるのに、別のモデルでは弱かったり耳へ圧迫感を与えたりするのか―その理由を知るには、技術の仕組みや違いを理解することが重要です。

ヘッドホンのノイズキャンセリングとは?その必要性と仕組み

ノイズキャンセリングは、外部音を減少させて、音量を上げなくても快適に音楽や音声を楽しめるようにするための機能です。騒がしい環境、例えば地下鉄やオフィス、飛行機では、耳に大きな負担がかかり、音量を過度に上げてしまいがちです。ANCは、耳に届く前に背景ノイズを低減することでこの問題を解決します。

その原理は「逆位相(アンチフェーズ)」です。外部マイクでノイズを拾い、その音と正反対の波形を生成して重ね合わせることで、低周波のノイズ(エンジン音や交通振動など)を相殺します。ただし、ANCは全ての音を消せるわけではなく、特に均一な低周波ノイズに効果的で、高周波や突発的な音声には限界があります。このため、ANCはヘッドホン自体の形状や密閉性による「パッシブノイズアイソレーション」と組み合わせて使われます。

パッシブとアクティブノイズキャンセリングの違い

パッシブノイズアイソレーションは電子回路を使わず、イヤホンやヘッドホンの密閉性、クッション、素材、形状により物理的にノイズを遮断します。特に会話やキーボード音、足音などの高・中音域ノイズに有効です。

一方、アクティブノイズキャンセリング(ANC)はマイクと電子アルゴリズムを用いて、持続的な低周波ノイズを抑制します。両者は競合ではなく、互いを補完する関係です。

  • パッシブは高周波ノイズや突発音をブロック
  • ANCは均一で持続的な低音ノイズを軽減

パッシブアイソレーションが弱ければ、優れたANCでも本来の効果を発揮できません。そのため、カナル型(イヤーチップタイプ)のTWSは、装着性の悪いオーバーイヤー型よりもノイズ抑制力が高くなります。

Active Noise Cancelling(ANC)の動作原理

ANCの基本は、外部ノイズを分析し、逆位相の音を発生させることです。内蔵マイクが周囲の音を常にモニタリングし、プロセッサーが実際に耳に届く音と比較してアンチノイズ(鏡像波)を生成します。この処理は毎秒数百~数千回リアルタイムで行われ、処理が速いほど副作用(圧迫感やホワイトノイズ)が少なくなります。最新のヘッドホンはDSPチップにより、状況に応じてANCの強度を自動調整しています。

特に一定の低周波音(交通機関のエンジン音や空調など)には効果的ですが、高音域や突発音には限界があります。ANCだけで完全な静寂は得られないものの、ノイズレベルを大幅に下げ、聴覚疲労を軽減します。

Feedforward ANCの特徴

Feedforward ANCは、ヘッドホンの外側に配置されたマイクが、外部ノイズを先に感知し、その信号をプロセッサーに送り、音が耳に届く前に逆位相波を発生させます。

主なメリット:
  • 外部ノイズへの素早い反応
  • 持続的な低周波ノイズへの高い効果
  • 内部のアコースティック影響を受けにくい
主なデメリット:
  • 風の影響を受けやすく、歪みが発生しやすい
  • 突発音や中周波ノイズには弱い
  • 調整が不十分だと自分の音も拾ってしまう

コストや実装の容易さから、エントリー~ミドルクラスのモデルによく採用されていますが、複雑なノイズ環境では限界があります。

Feedback ANC:フィードバック方式の強みと弱み

Feedback ANCは、イヤホン内部のマイクが耳元で実際に聞こえるノイズを分析します。耳の形状や装着状態なども加味し、補正用のアンチノイズを生成します。

メリット:
  • 耳に届く最終的なサウンドを正確に制御
  • 中周波や突発音にも比較的強い
  • イヤーチップのズレや漏れも補正可能
デメリット:
  • ドライバー音への反応で圧迫感が出やすい
  • 突発的な音量ピークに敏感
  • DSPの高度な制御が必要でコストがかかる

特に高級モデルで多く採用され、自然な制御感や安定したノイズ抑制が求められる場合に最適です。

ハイブリッドANC:2方式の融合がもたらすメリット

ハイブリッドANCは、外部と内部のマイク双方を利用し、DSPアルゴリズムでデータを統合します。これにより、より広範囲かつ安定したノイズ抑制が実現します。

主なメリット:
  • 低~中周波ノイズの効果的な抑制
  • 変動するノイズや突発音にも強い
  • 装着状態の変化による歪みが少ない
  • それぞれの方式の弱点を補完

ハイブリッド方式は幅広いノイズ状況に対応しやすく、偶発的なアーティファクトも抑制しやすいため、SonyやBose、Apple、Sennheiser、JBLなど多くのフラッグシップモデルに採用されています。

ANC使用時に発生するノイズや違和感の原因

ANCをオンにすると、ホワイトノイズやパチパチ音、耳への圧迫感を感じることがあります。これらは故障ではなく、マイクとアルゴリズムが外部環境を分析し、逆位相の音を生成する過程で発生する現象です。

主な原因:
  • システムノイズ:微細な音も増幅するため、静かな環境ではホワイトノイズが目立つ
  • 風や乱気流:外部マイクに風が当たると、低周波の歪みやパルスが発生
  • 装着性の悪さ:イヤーチップの密閉が不十分だと補正がうまく働かない
  • アルゴリズムの遅延:突発音への反応に時間差が生じ、一時的な静寂感やノイズが出ることがある

通常これらの影響は最小限ですが、目立つ場合はファームウェアやマイク品質、設定の問題が考えられます。

ANCの効果が高い音・低い音

アクティブノイズキャンセリングは、予測しやすく持続的なノイズに抜群の効果を発揮します。アルゴリズムが波形を解析しやすい均一な音ほど効果的です。

よく抑制できる音:
  • 飛行機のエンジン音(低周波ノイズ)
  • 交通機関の振動や走行音
  • 空調や換気扇の連続音
  • 遠くの人混みのざわめき

これらは一定の波形と持続性があり、ANCの真価が発揮されます。

抑制が苦手な音:
  • 人の声(特に近くて明瞭な会話)
  • 突然の物音:犬の鳴き声、食器の音、キーボードの打鍵、咳
  • 高周波ノイズ:電子音や足音
  • 予測不能な突発ノイズ

これらは波形の予測が難しく、逆位相生成までにわずかな遅延が生じてしまいます。

結論として、ANCは周囲のノイズを「柔らかく」静かにするものの、完全に消すことはできません。会話や突発音は主にパッシブノイズアイソレーションが補います。

ANC付きヘッドホン選びで本当に重視すべきポイント

「Active Noise Cancelling」表記だけで選んでも、本当に高性能なノイズキャンセリングが得られるとは限りません。実際の効果を左右するポイントを押さえましょう。

  • 装着性・イヤーチップの密閉性:物理的な遮音性が低いとANCの効果も低減
  • マイクの数と配置:外部・内部両方のマイクを持つハイブリッド方式がより正確
  • DSPの性能:高度なプロセッサーほど瞬時の環境変化に対応しやすい
  • 風対策:メッシュやフィルター、風ノイズ抑制モード搭載モデルが理想
  • 外音取り込み・適応型ANC:環境に応じて自動調整する機能があるとより自然
  • 実際のレビューや試聴:スペックだけでは分かりにくいため、現実の使用感も確認を

中価格帯でも「ANC対応」と謳うだけで実際には効果が薄いモデルも多いのが現状です。信頼できるブランドとしては、Sony、Bose、Apple、Sennheiser、JBL(上位モデル)などが挙げられます。

まとめ

アクティブノイズキャンセリングは現代ヘッドホンの主要技術ですが、その効果はANC自体だけでなく、アルゴリズム、マイク、装着性、音響品質の組み合わせに左右されます。Feedforward、Feedback、ハイブリッド各方式はノイズの種類によって効果に違いがあり、外部マイクは持続的な低周波ノイズ、内部マイクは耳元の音を補正、ハイブリッドはその両方を統合して最も安定した効果を発揮します。

ANCは均一な低周波ノイズには非常に効果的ですが、会話や高周波の突発音は完全に抑制できません。そのため、ノイズキャンセリング付きヘッドホンを選ぶ際は「ANC搭載」だけでなく、マイク数やDSPの性能、装着性、実際の使い心地など総合的にチェックすることが大切です。

ANCの仕組みと限界を理解すれば、自分の環境に合った本当に快適なモデルを選びやすくなり、通勤やオフィス、飛行機でもストレスフリーに音楽や作業を楽しめるでしょう。

タグ:

ノイズキャンセリング
ワイヤレスヘッドホン
ANC
ヘッドホン選び
音響技術
フィードフォワード
フィードバック
ハイブリッドANC

関連記事