CoWoSはNVIDIAのAIチップで不可欠なパッケージング技術です。HBMやチップレットとの高密度接続により、従来を超える演算性能とメモリ帯域を実現します。TSMCの先進技術やCoWoS-S/R/Lの特徴、AIアクセラレータの進化を支える仕組みまで詳しく解説します。
CoWoS(Chip-on-Wafer-on-Substrate)は、NVIDIAのAIチップパッケージング技術の中核を成し、近年のAIアクセラレータの革新に不可欠な存在となっています。従来の単一ダイの計算性能では限界があり、膨大な高速メモリを近接配置し、極めて低遅延でデータ転送を実現する必要が高まっています。
かつては半導体製造分野の専門用語だったCoWoSですが、AIの発展とともに、AIアクセラレータの根幹を支える技術となりました。特にNVIDIAのAIアクセラレータでは、計算ダイのすぐ隣に複数のHBM(高帯域幅メモリ)スタックを配し、従来のプリント基板では不可能だった高密度・高帯域・低消費電力の接続を実現しています。これにより、より複雑で効率的なパッケージング手法が求められるようになりました。
TSMCが開発したCoWoSは、計算ダイ・チップレット・高速メモリを一つの大きなパッケージ内に統合できる技術です。これにより、従来の基板実装では得られない高密度な接続を実現し、2.5Dパッケージングの代表例とされています。TSMCは、CoWoSを現代HPCおよびAIシステムの基盤と位置付けています。
一見すると巨大なプロセッサに見えるCoWoSモジュールですが、内部には複数のコンポーネントが密接に配置されています。典型的な構造は以下の通りです:
各層はそれぞれ異なる役割を担います。GPUはデータ処理、HBMは高速データ供給、インターポーザは高密度接続、パッケージ基板は全体の電力供給と外部接続を担います。
インターポーザは、GPUやメモリの直下に置かれる超高密度な微細配線基板です。これにより、GPUと複数のHBM間に数千本もの短距離配線を設けられ、従来より格段に広いメモリ帯域が確保できます。信号経路が短いため、高速かつ低消費電力なデータ転送が可能となります。
AIアクセラレータでは、GPUが高速に必要なデータを取得できて初めて高い演算性能が発揮されます。HBMはメモリチップを縦方向に積層し、幅広なインターフェースを実現します。こうした設計により、「HBM4 - AI・HPC向け次世代メモリ」のような圧倒的なメモリ帯域が実現し、AIアクセラレータの進化を後押ししています。
CoWoSは、HBMスタックをGPUのすぐ隣に配置できるため、インターポーザ経由で大量の並列データ転送が可能です。これにより、従来の基板配置では不可能だった高速なメモリアクセスが実現します。さらに、空間効率にも優れ、AIサーバ向けの限られたスペースに多くの計算資源とメモリを搭載できます。
長らくAIアクセラレータの進化は、トランジスタ数や微細化技術の進展に支えられてきました。しかし、現代のAIモデルは膨大なデータ転送を伴うため、メモリ帯域が新たなボトルネックとなっています。CoWoSは、複数のHBMスタックをGPUの近傍に配置し、広帯域インターフェースで接続することで、計算性能とメモリ帯域の両面を最大化します。
同時に、プロセッサアーキテクチャ自体も変化しています。巨大なモノリシックダイから、複数のチップレットを連結する設計が主流となりつつあります。詳しくは「チップレット:モノリシックとの違いと未来」で解説していますが、こうした分割設計には高密度・高性能なパッケージングが不可欠です。
AIモデルの大型化に伴い、TSMCはCoWoSパッケージの物理サイズも拡大しています。例えば、2026年には最大5.5レチクル、2028年にはおよそ14レチクルサイズ(約10個の大規模計算ダイ・20スタックのHBMを想定)まで対応予定です。これにより、将来のAIシステムに必要な膨大な計算資源とメモリを単一モジュール内に統合できます。
ただし、サイズ拡大は新たな課題も生みます。高周波信号の整合性、電力供給、発熱対策、機械的安定性など、多くのエンジニアリング課題を解決する必要があります。
NVIDIAは、CoWoSの活用でAI分野をリードする代表的な企業です。同社の最新アクセラレータは、単一の大型GPUではなく、複数の巨大な計算ダイと高速HBMを統合した複雑なモジュールとなっています。
たとえばBlackwellアーキテクチャでは、2つの大型GPUダイが10TB/s以上の帯域で結合され、2080億トランジスタを搭載しています。HBMも並列配置され、TSMCのCoWoS技術によって各コンポーネントが緊密に連結されます。これにより、物理的には独立したチップであっても、システム全体として一体的に動作します。詳細は「NVIDIA B200とBlackwellアーキテクチャの解説」でご覧いただけます。
Grace Blackwell GB200のようなシステムでは、CPUと複数のBlackwell GPU、数十テラバイトのHBMが統合され、ラック全体で576TB/sもの驚異的なメモリ帯域を誇ります。このような大規模システムにおいて、パッケージング技術の優劣が全体の性能に直結する時代となっています。
従来、プロセッサの進化は微細化技術の刷新と同義でしたが、現在はパッケージングの巧拙がAIチップの性能を大きく左右します。単一ダイのサイズにはリソグラフィ技術の限界があり、巨大なモノリシックチップの製造は困難でコストも高騰します。そのため、複数ダイを高速かつ効率的に接続するパッケージング技術が不可欠となりました。
TSMCはCoWoSのさらなる拡張を進め、より多くの論理チップやHBMスタックを一つのパッケージに収められるよう開発しています。今やパッケージングは、AIアクセラレータの特徴を決定づける重要な要素の一つに数えられています。
CoWoSは単一の固定技術ではなく、用途や規模に応じて異なるバリエーションが展開されています。主な3つのタイプは以下の通りです。
CoWoS-Sでは、大型のシリコンインターポーザ上に論理ダイとHBMが配置されます。高密度な配線が可能ですが、インターポーザが大きくなるほど製造コストや難易度が増します。TSMCの基準では最大3.3レチクル(約2700mm²)程度が目安です。
CoWoS-Rは、シリコンインターポーザの代わりにRDL(再配線層:ポリマー+銅配線)を用いた構造です。より大きなパッケージ化を可能にし、メカニカルな柔軟性にも優れています。2023年から量産が始まっています。接続密度はやや劣りますが、広い面積と多くのコンポーネントの配置に適しています。
CoWoS-Lは、RDLベースの大規模インターポーザと、必要部分にのみシリコンLSI(ローカルシリコンインターコネクト)を組み合わせるハイブリッド方式です。これにより、特定部位のみ高密度配線を確保しつつ、全体としては大面積・高集積化が実現できます。2024年には3.5レチクルサイズで量産が始まり、さらなる拡張が進んでいます。
これらのバリエーションは、AIモデルの拡大とともにパッケージング技術の高度化が不可欠であることを示しています。今後も用途や設計要件に応じて、最適なパッケージ構造が選択されていくでしょう。
CoWoSは、現代AIプロセッサの設計思想を大きく変えました。GPUやチップレット、HBMスタックを高密度・高帯域で緊密に統合することで、AIアクセラレータの性能を最大限に引き出します。NVIDIAをはじめとする開発企業にとって、CoWoSは巨大化するAIモデルに対応するためのインフラそのものです。
今後もCoWoS-S、CoWoS-R、CoWoS-Lといった多様なパッケージング技術の進化が、AIハードウェアのスケールと性能向上を支えていくでしょう。CoWoSは単なる「GPUの基板実装技術」ではなく、膨大な演算能力とメモリ帯域を一つのシステムにまとめ上げる、AI時代のインフラストラクチャなのです。