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DirectStorageとは?ゲームのロード時間を劇的短縮するMicrosoftの最新技術

DirectStorageは、SSDからGPUへの直接データ転送を実現し、ゲームのロード時間を大幅に短縮するMicrosoftの革新的な技術です。CPU負荷の軽減やシームレスなゲーム体験を可能にし、今後のPCゲーミングや3Dアプリケーション分野で標準技術となることが期待されています。NVMe SSDや対応GPUがあれば、次世代の高速ロードを体感できます。

2025年11月9日
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DirectStorageとは?ゲームのロード時間を劇的短縮するMicrosoftの最新技術

現代ゲームはますます大規模化し、膨大な世界、高精細なテクスチャ、複雑な物理演算を特徴としています。しかし、どれほど高速なSSDを使ってもデータの瞬時ロードには限界があり、CPUがボトルネックとなることも少なくありません。こうした課題を解決するため、MicrosoftはDirectStorageという新技術と、それと連携するGPU Decompressionを発表しました。これにより、ビデオカードがCPUを介さずにゲームファイルへ直接アクセスできるようになりました。

DirectStorageとは?

DirectStorageは、Microsoftが開発したゲーム向け高速データロード技術です。SSD(特にNVMe SSD)とGPU(ビデオカード)を直接接続し、CPUを経由せずにデータ転送を行うことで、ロード時間を劇的に短縮します。

従来は、すべてのファイルやテクスチャ、3DモデルがCPUを経由し、メモリに展開された後、GPUへ渡される仕組みでした。このプロセスは、最速のNVMe SSDを使っても、CPUの処理能力がボトルネックとなり、遅延の原因になっていました。

DirectStorageはこの流れを一新し、圧縮されたゲームデータをSSDから直接GPUへ転送し、GPU上で展開(データの解凍)を行います。これにより、CPUの負荷を大幅に軽減し、全体的な処理速度を向上させることができます。

この技術はもともとXbox Series X|Sの「Xbox Velocity アーキテクチャ」として登場し、その後Windows 10・11にも導入されましたが、Windows 11でのサポートが最も充実しています。これにより、ほぼ瞬時のロード、シームレスなシーン切り替え、オープンワールドでの滑らかなゲーム体験が可能となります。

DirectStorageとGPU Decompressionの仕組み

DirectStorageがゲームのロードを高速化する仕組みを理解するには、従来のデータ経路と比較するのが効果的です。以前はデータが「SSD → CPU → メモリ → GPU」という経路で流れ、CPUがデータの解凍や転送を担っていました。特に数千もの小さなファイルを同時に読み込む場合、CPUは大きな負荷を抱えていました。

DirectStorageでは、SSDからGPUへデータが直接転送され、ここで「GPU Decompression(GPUによるデータ展開)」が稼働します。GPU Decompressionは、GDeflateなどの並列計算向けに最適化された圧縮フォーマットをGPU側で解凍する仕組みです。これにより、従来CPUが担っていた展開作業を、何千ものコアを持つGPUが高速に処理できるようになります。

その結果、テクスチャやオブジェクトの瞬時ロード、ほぼ途切れのないロケーション切り替え、大規模なオープンワールドの滑らかな展開が実現。ForspokenやDiablo IVといった大型ゲームで、DirectStorageとGPU Decompressionの組み合わせによるロード時間短縮と安定化が体感できます。

必要なハードウェアと互換性

DirectStorageの恩恵を最大限に受けるには、いくつかのハードウェア・ソフトウェア要件を満たす必要があります。主なサポートはWindows 11で提供されており、このバージョンではNVMe SSDとDirectX 12 Ultimateに最適化された新しいI/Oスタックが利用可能です。Windows 10でも一部機能は使えますが、性能面での利点は限定的です。

  • NVMe SSDの搭載:これが最重要要件です。NVMe SSDは高速なデータ転送と低遅延を実現し、ゲームデータへの即時アクセスを可能にします。SATA SSDやHDDは、DirectStorageの恩恵をほとんど受けられません。
  • DirectX 12およびShader Model 6.0以上に対応したGPU:NVIDIA(GeForce RTX 2000シリーズ以降)、AMD(Radeon RX 6000シリーズ以降)、Intel Arcシリーズが該当します。最新世代のドライバーインストールも必須です。

Windows 11では、対応するゲームを起動するだけでDirectStorageが自動的に有効化されます。開発者向けには、DirectStorage SDKがMicrosoftから提供されています。

対応ゲームと導入事例

DirectStorageに対応するゲームはまだ多くありませんが、確実に増加しています。最初の事例はSquare Enixの『Forspoken』で、2023年に導入され、ロード時間を数十秒から数秒へと劇的に短縮しました。NVMe SSDとGPU Decompression対応ビデオカードを組み合わせれば、ロード画面をほとんど見ることなく、オープンワールドが即座に展開されます。

その後、『Diablo IV』『Ratchet & Clank: Rift Apart』『Call of Duty: Modern Warfare III』などの人気作でも、部分的にDirectStorage技術が取り入れられています。Microsoftは特にUnreal Engine 5やUnity 6を利用する今後の大型タイトルに向けて、DirectStorageを標準化する動きを強めています。また、3DビジュアライゼーションやCAD、アーキテクチャ分野でも、大容量データの高速ロードのためにDirectStorageが活用され始めています。

DirectStorageとNVMe SSDの違い

DirectStorageとNVMe SSDを混同する人も多いですが、両者は異なる役割を持っています。NVMe SSDは高速なハードウェアインターフェースで、物理的なデータ転送速度を担い、DirectStorageはこのハードウェアのポテンシャルを最大限に活かすソフトウェア技術です。

NVMe SSD単体でも高速ですが、従来通りCPUを経由してデータが処理されるため、特にオープンワールドゲームでは転送経路の遅延が発生していました。DirectStorageは、データ転送経路を「SSD→GPU」へとシンプルにし、CPUの帯域に依存しない構造を実現します。これにより、ロード時間だけでなくフレームレートの安定化(マイクロスタッターの減少)も期待できます。

MicrosoftやForspoken開発陣のテストによると、同じNVMe SSD環境でもDirectStorageを使うことで2〜3倍の高速化が可能になり、GPU DecompressionによってCPU負荷も最大40%軽減されます。

Windows 11でDirectStorageを有効にする方法

多くの場合、DirectStorageはシステムとハードウェアが対応していれば自動的に有効化されますが、手動で確認する方法もあります。

  1. Windowsのバージョンを確認:DirectStorageはWindows 11(22H2以降)で最適に動作します。Windows 10でも利用可能ですが、ファイルシステムやI/Oスタックの最適化は限定的です。
  2. NVMe SSDの搭載確認:NVMe規格のSSDが必須です。SATA SSDやHDDでは大きな効果は得られません。
  3. グラフィックカードの互換性を確認:NVIDIA GeForce RTX 2000以降、AMD Radeon RX 6000以降、Intel Arcシリーズが完全対応です。ドライバーも最新に更新しましょう。
  4. DirectStorage対応ゲームをインストール:Forspokenなど、機能が組み込まれているゲームを起動すれば、自動的にDirectStorageが有効になります。
  5. Xbox Game BarやSDKでステータス確認:Xbox Game BarでDirectStorageの有効・無効を確認できます。開発者はMicrosoftのDirectStorage SDKを利用し、診断ツールで動作状況をチェックできます。

すべての要件を満たしていれば、DirectStorageは追加設定なしで自動的に機能します。

DirectStorageの今後と展望

DirectStorageは、これからのゲーム開発において不可欠な標準技術となりつつあります。現在は対応タイトルが限られていますが、Unreal Engine 5やUnity 6への統合によって、ネイティブ対応タイトルが今後急増する見込みです。ゲーム開発者もGPU Decompressionの活用を進めており、特に大規模オープンワールドや高密度データを扱う作品で、ロード時間短縮とCPU依存度の低減が期待されています。

同時に、MicrosoftはSDKツールの拡充を進めており、スタジオがDirectStorageをより簡単に導入できる環境を整備中です。今後はゲームだけでなく、3DモデリングやVR、プロ向けビジュアライゼーション、CADシステムなど多様な分野への応用も見込まれます。

DirectStorageは、NVMe SSDと最新GPUの性能を最大限に引き出す新たなインフラストラクチャとして、今後のPCゲーミングやデジタルコンテンツ制作の標準となっていくでしょう。


まとめ

DirectStorageは、単なるWindowsのアップデートにとどまらず、ゲームやアプリケーションのパフォーマンスを飛躍的に向上させる革新的技術です。SSDからGPUへの直接データ転送によって、従来のボトルネックを排除し、ほぼ瞬時のロードやCPU負荷の軽減、テクスチャ読み込み時のマイクロスタッターの解消を実現します。

ゲーマーにとっては、よりスムーズなゲームプレイと待ち時間の短縮、開発者にとっては、スピードを損なわずにさらに大規模で緻密な世界を構築できるという大きなメリットがあります。

今後、ハードウェアの進化とMicrosoftによるサポート拡充により、DirectStorageはPCゲーミングの新たなスタンダードとなり、次世代ゲーム体験の礎となるでしょう。

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