テラヘルツ通信は6G時代の中核となる超高速・低遅延ワイヤレス技術です。仕組みや特徴、応用分野、メリット・課題、今後の展望までを分かりやすく解説します。次世代通信の未来像がわかります。
テラヘルツ通信は、次世代ワイヤレス技術の中核として注目されている超高周波帯域のテクノロジーです。マイクロ波と赤外線の中間に位置し、両者の特性を併せ持つことで、超高速データ伝送と低遅延を実現します。6G標準への移行が進む中、通信速度の飛躍的な向上と膨大なトラフィック処理への期待から、テラヘルツ通信への関心が急速に高まっています。
テラヘルツ通信は、約0.1~10THzの周波数帯域を利用したデータ伝送技術です。この帯域はマイクロ波と赤外線の間にあり、電波より短く光より長い波長という独特の特性を持ちます。理論上、テラヘルツ波は非常に広い周波数帯域を活用できるため、数百ギガビットからテラビット/秒レベルのデータ伝送が可能です。これが、6Gをはじめとした次世代高速通信の基盤として注目される理由です。
通信の基本原理は他の無線技術と同様で、信号の振幅・周波数・位相の変化によってデータがエンコードされます。しかし、テラヘルツ波は壁や水蒸気による減衰が大きく、機器間に見通し線が必要です。その一方で、狭いビームと高い指向性により、短距離・高密度なデータセンター内通信や高精度センサーなど、特定用途での優位性を発揮します。
これらの特性により、テラヘルツ通信は超高速短距離通信やセンシング技術、安全システムなどに応用が進んでいます。
テラヘルツ帯アンテナは、微細なリソグラフィ技術で作られ、複数素子によるビーム制御が可能です。電子的に方向を切り替えられるため、移動体通信や6Gネットワークに適しています。
これらのデバイスにより、高密度かつ安定したデータエンコードが可能です。
超高速半導体やボロメータ型センサーによる高感度な受信が求められます。テラヘルツ信号は減衰が大きいため、受信感度が重要です。
障害物回避や最適な通信路確保のため、リアルタイムでビーム方向を制御する電子システムが不可欠です。
こうした特殊部品の製造コストや生産標準の未成熟さが、現時点での普及の障壁となっています。
8K/16K映像ストリーミング、リアルタイムAR/VR、デジタルツイン、クラウドゲーミング、自律型交通など、超低遅延・超高速通信が求められる分野で活用が進んでいます。
サーバー間をワイヤレスで高速接続することで、遅延低減と柔軟な拡張が可能となります。
テラヘルツ波は衣服や素材の下を「見る」ことができ、安全な空港スキャナーや高精度短距離レーダーに利用されています。
非侵襲・高感度なテラヘルツイメージングは、皮膚がんの早期発見や炎症、微細な組織損傷の検出に役立っています。
分子構造解析や化学反応のダイナミクス研究など、テラヘルツ波は高精度な計測に不可欠です。
材料の品質管理、ICや複合材の欠陥検査、物質の湿度・密度分析など、多岐にわたります。
こうした課題は、新素材、アンテナ設計、モジュール開発、6G/7Gネットワークアーキテクチャの進化を促す原動力となっています。
広範囲を担うサブ6GHz、都市部のミリ波、超高速スポット通信のテラヘルツ帯域という多層構造が想定されています。
反射型・制御型表面(RIS)により、障害物裏でも柔軟にビームを誘導し、カバレッジを拡大します。
一つのテラヘルツチャネルで通信と高精度レーダーを同時に実現。物体追跡や距離測定、リアルタイム空間マッピングへの応用が期待されます。
グラフェントランジスタやフォトンチップ、QCLなどの革新的デバイスにより、スマートフォンやノートPCへの実装が進む見通しです。
7G時代にはテラヘルツ帯域が光と無線の橋渡しとなり、真のテラビット級モバイル通信が実現すると予想されています。
テラヘルツ通信は、単なるワイヤレス技術の発展にとどまらず、物理空間とデジタル空間の境界を曖昧にする新時代のネットワーク基盤となるでしょう。
テラヘルツ通信は、無線技術の未来を切り拓く有望な分野です。広帯域、高指向性、低遅延といった特性は、6G/7Gネットワークや高精度センシング、医療、セキュリティ、産業自動化など多様な応用を可能にします。一方で、障害物への弱さや減衰、コスト、天候依存性などの課題も多く、材料・デバイス・ビーム制御技術の進化が不可欠です。
現在も研究開発が活発に進み、6Gプロトタイプでは既に記録的なデータ速度が達成されています。今後、テラヘルツ帯域はデジタル社会の要求に応じてさらに発展し、物理空間とデジタル空間をシームレスにつなぐ通信基盤として大きな役割を果たしていくでしょう。